古典文法
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目次
● 所有の「が」
●「たり」:完了 <…タ>
●「ぬ」:①否定 ②強め
●「なり」
①体言/連体形+なり:断定 <…ダ、…デアル>
②終止形+なり:伝聞・推定 <…ヨウダ、ラシイ>
●「けり」
①伝聞回想(人から聞いた話を思い出している) <…ダトイウコトダ>
②詠嘆 <…コトダナア>
●「き」
:経験回想(自分で経験したことを思い出している) <…デアッタ>
※「し」(連体形)、「しか」已然形
●「にけり」
意味:過去において確かにそうだったという回想を強く述べる
<…シテシマッタ、…ナッテシマッタ>
●「ば」の見分け方265
①已然形+ば:既定  「…ナノデ」「…シタトコロ」「 …スルトイツモ」
②未然形+ば:仮定 「…ダッタラ」
●「で」:否定しながら下へ続ける <…シナイデ>
●係結び 「ぞ」「なむ」「や」「か」→体 / 「こそ」→已
●「まし」:事実でない事柄の仮想 <モシ…ダッタラ…>
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●「が」:所有の「が」
おらが村の村長さん:私の村の村長


●「たり」:完了 <…タ>
※現代語の<…タ>の元になった言葉

あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。(竹取)
山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬもみぢなりけり(32)

●「ぬ」:
①否定の「ぬ」
未然形 + ぬ(連体形) + 名詞
名詞の前の「ぬ」は否定(「ぬ」=「ず」の連体形)
②強めの「ぬ」
連用形 + ぬ(終止形)

来(こ)ぬ人/来(き)ぬ, あらぬこと/ありぬ

口を割らない(終)→口を割らない男(連体)
口を割らず(終)→口を割らぬ男(連体)

①否定の「ぬ」(連体形)→後ろに名詞がつづく
里古りて柿の木もたぬ家もなし(松尾芭蕉)
これやこの行くも帰るも別れては しるもしらぬもあふ坂の関(10)
山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬもみぢなりけり(32)
しら露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける(37)
由良のとを渡る舟人かぢを絶え 行くへも知らぬ恋の道かな(46)
思ひわびさても命はあるものを 憂きにたへぬは涙なりけり(82) 文脈次第
わが袖は潮干に見えぬ沖の石 人こそ知らねかわくまもなし(92)
来(こ)ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ(97)

②強めの「ぬ」(終止形)
わたの原八十(やそ)島かけてこぎ出でぬと 人にはつげよあまのつり舟(11)
山里は冬ぞさびしさまさりける 人めも草もかれぬと思へば(28)
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月やどるらむ(36)
あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたづらになりぬべきかな(45)
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな(52)
滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ(55)
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●「なり」
①体言/連体形+なり:断定 <…ダ、…デアル>
②終止形+なり:伝聞・推定 <…ヨウダ、ラシイ>

①体言/連体形+なり:断定 <…ダ、…デアル>
山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬもみぢなりけり(32)
嵐吹く三室の山のもみじ葉は 立田の川の錦なりけり(69)
思ひわびさても命はあるものを 憂きにたへぬは涙なりけり(82)
花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり(96)
風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける(98)
みそぎ:ここでは六月祓(みなづきはらえ)、夏越しの祓
ももしきや古き軒端(のきば)のしのぶにも なほあまりある昔なりけり(100)
ももしき:内裏,宮中

②終止形+なり:伝聞・推定 <…ヨウダ、ラシイ>
わが庵(いほ)は都のたつみしかぞすむ 世をうぢ山と人はいふなり(8)喜撰法師
たつみ:巽、辰巳(南東)
世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(83)
み吉野の山の秋風さ夜ふけて ふるさと寒く衣うつなり(94)
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●「けり」
①伝承回想178,202 ⇔「き」経験回想
<…ダトイウコトダ>
②詠嘆
<…コトダナア>
今は昔、竹取の翁という物ありけり。(アッタソウナ)
…よろづのことに使ひけり。(ツカッテイタトイウコトダ)

山里は冬ぞさびしさまさりける 人めも草もかれぬと思へば(28)
人はいさ心もしらずふるさとは 花ぞ昔の香ににほひける(35)貫之
しら露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける(37)
あひみての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり(43)
君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな(50)
※もがな:…デアッテホシイナ
滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ(55)
春の夜の夢ばかりなる手(た)枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ(67)
よそにのみあはれとぞ見し梅の花 あかぬ色香は折りてなりけり(古今 巻一)

●「き」(終止形)
意味:経験回想(自分で経験したことを思い出している)
<…デアッタ>
※「し」(連体形)、「しか」已然形
⇔「けり」伝承回想
①「き」(終止形):経験回想
はじめに言葉ありき。(聖書)
この三柱の神は、みな独神(ひとりがみ)となりまして、身を隠したまひき。
…、伊邪那美命(いざなみのみこと)、「然(しか)善(よ)けむ」と答へたまひき。
…、子水蛭子を生みき。(古事記)
みかの原わきて長るるいづみ川 いつ見きとてか恋しかるらむ(27)
契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波こさじとは(42)
かたみに:タガイニ 末の松山:海岸にあって決して波の越えることのない山

②「し」(「き」の連体形):経験回想
過ぎ去りし日々
うさぎ追いしかの山、こぶな釣りしかの川
聞きしにまさる、----(連体形、後ろに名詞が省略されている)
天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成りし神の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、次に神産巣日神(かみむすひのかみ)。(古事記の書き出し)
天の原ふりさけみれば春日なる 三笠の山に出でし月かも(7) 安倍仲麿
花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(9)小野小町
いま来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ちいでつるかな(21)
有明のつれなく見えし別れより 暁ばかりうきものはなし(30)
君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな(50)
やすらはで寝なましものを小夜ふけて かたぶくまでの月を見しかな(59)
 やすらふ:タメラウ
長らへばまたこの頃やしのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき(84)

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●「にけり」
「に(強め)」+「けり」(詠嘆)    ※「に」は強めの「ぬ」の連用形
意味:過去において確かにそうだったという回想を強く述べる
<…シテシマッタ、…ナッテシマッタ>

かささぎの渡せる橋におく霜の 白きをみれば夜ぞふけにける(6) 家持
花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(9)
しのぶれど色にいでにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで(40)
恋すてふわがなはまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか(41)
八重葎(むぐら)しげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来(き)にけり(47)
高砂の尾上(をのへ)の桜咲きにけり 外山のかすみ立たずもあらなむ(73)
 高砂(たかさご):砂が高く積み重なった山 外山(とやま):人里近い山⇔深山(みやま)
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●「ば」の見分け方265
①已然形+ば:
既定 「…ナノデ」、「…シタトコロ」、「 …スルトイツモ」
已然:已(すで)に然(しか)り
②未然形+ば:
仮定 「…ダッタラ」(仮定)  
未然:未(いま)だ然(しか)らず

①已然形+ば:既定 (事実)  ←「ば」を「ども」で置き換え可
柿くへば 鐘が鳴るなり法隆寺(正岡子規)
あひみての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり(43)
さびしさに宿を立ちいでてながむれば いづくも同じ秋の夕暮れ(70)
ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる(81)
熟田津(にきたつ)に船乗りせむと月待てば 塩もかなひぬ今は漕ぎいでな(万)
熟田津:愛媛県松山市の海岸 百済救済の船団が熟田津で停泊 その後 白村江

②未然形+ば:仮定 ←「ば」を「ず」で置き換え可
東風(こち)吹かば匂ひをこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ(菅原道真)
をぐら山峰のもみぢ葉こころあらば 今ひとたびのみゆき待たなむ(26)
心にもあらでうき世にながらへば 恋しかるべき夜半の月かな(68) 
ながらう:下二
長らへばまたこの頃やしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき(84)

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●「で」
接続助詞(「…ずて」が変化したもの)239
:否定しながら下へ続ける <…シナイデ>

このうらみ、はらさでおくべきか!
君ならで誰にか見せむ梅の花 色をも香をも知る人ぞ知る(古今 巻一)
難波潟(なにはがた)みじかき蘆(あし)のふしの間もあはでこの世をすぐしてよとや(19)
名にしおはば逢坂山のさねかづら 人に知られでくるよしもがな(25)
よし:手段  もがな:…ガアルトイイナ
やすらはで 寝なましものを小夜(さよ)ふけて かたぶくまでの月を見しかな(59)
今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな(63)
心にもあらでうき世にながらへば 恋しかるべき夜半(よは)の月かな(68)
花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり(96)
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●係結び
連体形:「こと」につづく
已然形:「ども」につづく

「ぞ」→連体形
奥山にもみぢふみわけ鳴く鹿の 声聞くときぞ秋は悲しき(5)
山里は冬ぞさびしさまさりける 人めも草もかれぬと思へば(28)
人はいさ心もしらずふるさとは 花ぞ昔の香ににほひける(35)貫之
しら露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける(37)
世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(83)
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする(89)
風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける(98)

「なむ」→連体形
名をば、さぬきの造(みやつこ)となむいいける。(竹取)
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。(竹取)

「や」→連体形
難波江の蘆(あし)のかりねのひとよゆゑ 身をつくしてや恋ひわたるべき(88)

「か」→連体形
浅茅生(あさぢふ)の小野のしのはらしのぶれど あまりてなどか人の恋しき(39)

「こそ」→已然形(※「こ」と「已」の字が似ている)
月みればちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど(23)
ち:千 ぢ:接尾語
恋すてふわがなはまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか(41)
八重葎(むぐら)しげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来(き)にけり(47)
みかきもり衛士(ゑじ)のたく火の夜はもえ 昼は消えつつ物をこそ思へ(49)
 みかきもり(御垣守):宮中を敬語する人
滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ(55)
春の夜の夢ばかりなる手(た)枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ(67)
長からむ心も知らず黒髪の みだれて今朝は物をこそ思へ(80)
世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(83)
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●「まし」<モシ…ダッタラ…>
事実でない事柄の仮想219
あふことの絶えてしなくばなかなかに 人をも身をも恨みざらまし(44)

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●その他
・主語を示す「が」がつかない
・同じ文の中で主語が変わることに注意(文脈や敬語で判断するしかない)


参考文献
国文法ちかみち/洛陽社/小西甚一
古典解釈シリーズ 百人一首(全)/中道館/春山要子
基本古語辞典/大修館/小西甚一